大判例

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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)506号 判決 1978年9月27日

控訴人 全国税労働組合京都支部 ほか一名

被控訴人 国

訴訟代理人 松田英雄 篠原一幸 辻井治 塩津英雄 ほか二名

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

一  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(一)控訴人

「一 原判決を取消す。二 被控訴人は控訴人らに対し各金五〇万円及びこれに対する昭和五〇年六月二四日から完済まで年五分の金員を支払え。三 訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決。

(二)  被控訴人

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原判決の引用 <省略>

二  控訴代理人は、「一、労働組合は、労働者の経済的地位、生活利益の擁護と向上のためには経済的活動のほかに政治的活動を行なうことができ、このことは公務員の職員組合も同じである。二 公務員個人が控訴人荒井の本件行為のように組合構成員たる資格で組合活動の一環として政治活動を行なつても、それは憲法二八条の趣旨に照らして国家公務員法(以下、国公法と略す)一〇二条、人事院規則一四-七(以下、規則と略す)に該当しないと解すべきである。三 規則六項一三号の文書等には「政治目的を有する」ことが必要であるが、本件「佐藤内閣打倒」のプラカードはメーデー大行進のうちの僅か一本に過ぎず、客観的に政治目的が極めて希簿である。」と述べた。

三  被控訴代理人は「公務員の職員組合も政治的行為を行なうには制約を受けるものであり、本件行為が職員組合の指示によつてその活動の一環として行なわれたものであつたとしても、なんらこれを正当化するものではない。」と述べた。

第三証拠 <省略>

理由

第一原判決の引用

当裁判所も原判決と同様、原告らの請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり訂正、附加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。

原判決二五枚目表の終りから二行目の「より」を削除して、そのあとに「ならびに国公法の他の規定を通覧」を加入し、

同行の「目的」の次に「、すなわち、委任により処理すべき問題」を加入し、

同終りから一行目の「により、」を「、特に」と訂正し、

同裏一行目の「こと」の次に「は明らかであり」を、同二行目の「おそれのある」の次に「行動類型に属する」を各加入し、

同行の「政的行為の定め」を「政治的行為を具体的に定めること」と訂正し、同四行目の「以上」の次に「少なくとも公務員関係の規律としては」を、同行の「禁止」の次に「内容」を各加入し、

同六行目の「いかに」を削除し、

「行為類型」を「行動類型」と訂正し、

同八行目の「なく、」の次に「憲法の許容する委任の限度を超えるものではないから」を加入し、

同一二行目の「右規程」から二六枚目表一行目の「関係がない。」までを、「右規程二条三項に基づく懲戒処分に達しない程度の注意喚起処分であつて、憲法三一条所定の刑罰ないしこれを含まれると解すべき秩序罰や執行罰ではなく、一般にはこれを含まれないとされている懲戒罰ですらない。」と、同二六枚目表の終りから四行目の「において」を「は、その」と各訂正し、

同裏の終りから五行目の「これは」の次に「憲法二一条の保障する」を、同二七枚目表の終りから五行目の「十分な」の次に「合理的」を各加入し、

同終りから四行目の「必要最少限」を「合理的で必要やむを得ない限度」と訂正し、

同二八枚目表の前から二行目の「平等」の前に「公正、」を加入し、

同四行目の「平等原則」を「公正、平等」と、同裏の前から一行目の「行政における平等原則」を「行政の公正」と各訂正し、

同一〇行目の「平等」の前に「公正、」を加入し、

同一一行目の「享受できる」を「享受し得る」と、同二九枚目表の前から九行目から一〇行目にかけての「必要性がある」を「必要やむを得ない限度にとどまる」と各訂正し、

同一〇行目の「禁止の目的」の次に「と禁止される政治行為」を加入し、

同一二行目の「限り、かかる行為」を「政治的行為」と、同裏前から六行目の「少かれ」を「少なかれ」と各訂正し、

同三〇枚目表の前から五行目以下同裏の前から八行目までの全部を削除し、

同三一枚目裏の前から一〇行目以下同三三枚旦畏の前から六行目までの全部を削除し、

同三三枚目裏の前から七行目の「6」を「5」と、同三四枚目裏の前から七行目の「動行」を「行動」と訂正し、

同三七枚目表の前から三行目から八行目まで全部を削除し、同二一一行目の「公務員法秩序の」を「公務員法上の秩序」と訂正し、

同四一枚目裏の前から五行目の「かかる」の前に「公務員の」を加入する。

第二国公法一〇二条一項及び規則が憲法に違反する旨の主張の検討

一  憲法一四条との関係について

法の下における平等の原則を宣明する憲法一四条は、人種、信条、性別等不合理な理由による差別を禁止するものであつて、各人の能力その他の合理的な理由による取扱の差別までをも禁じているものではない。

なるほど国公法一〇二条一項及び規則による政治行為の禁止は、国民一般に対し向けられているものではなく、ひとり公務員のみを対象としているものである。しかしながら、公務員は国民一般と異なり、憲法一五条二項に基づき国民の「全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」とされ、とくに行政の分野における公務は、憲法の定める議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し国民全体に対する奉仕を旨とし政治的偏向を排して運営されなければならないのであるから、そのためには個々の公務員が政治的に、一党一派に偏することなく、厳に中立の立場を堅持して、その職務の遂行にあたることが必要となる。したがつて、公務員の政治的中立性が維持され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請するところでもあるから、国民一般と異なり、公務員のみに対し、その政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、合理的な理由に基づく取扱の差異であつて憲法一四条の禁止するものとはいえない。

また、ひとしく公務員であつても、国家公務員は地方公務員に比較して政治活動の規制の程度、方法が厳格であるけれども、それは、政治的行為の禁止に対する違反が行政の中立的運営に及ぼす弊害につき両者間に逕庭があることによるものであつて、合理的な理由に基づくものであるから、両者間の取扱に差異があるからといつて、憲法一四条に違反するものではない。

二  憲法二一条との関係について

公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむを得ない限度にとどまる限り、憲法二一条に反するものでないことは、前示原判決(前示訂正、附加後のもの。以下同じ)の引用により説示したところであるが、国公法一〇二条一項及び規則が右の限度にとどまるか否かは、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の点から検討すべきものである。

ところで、禁止の目的、この目的と禁止される行為との関連性については、前示原判決の引用によりこれが認められるべきであることを明らかにした。

そこで、次に利益の均衡の点について考察すると、民主主義国家においては、できる限り多数の国民の参加によつて政治が行なわれるべきことに重要な利益があるから、ひとしく国民の一員である公務員の政治的行為を禁止することによつて右政治参加の利益が失なわれる点を軽視することはできない。しかしながら、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治行為を、これに内包される意見表明そのものの制約を目的としないで、その行動のもたらす弊害を防止することをねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明が制約されることになるものの、それは、単に行動の禁止に伴う限度における間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ前示国公法及び規則はその定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない。他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同の利益であつて、それは、失われる利益に比して一層重要なものであるから、その禁止によつて利益の均衡を失うものではない。

そして、このような見地から、本件で問題とされている規則五項四号、六項一三号の政治的行為をみると、それは、特定の内閣に反対する政治目的を有する文書を掲示する行為であつて、政治的偏向の強い行動類型に属するものにほかならず、政治的行為の中でも、公務員の政治的中立性の維持を損うおそれの強いものであり、政治的行為の禁止目的との間に合理的関連性を有することは明らかである。また、本件行為の禁止は、もとよりそれに内包される意見表明そのものの制約を目的としたものではなく、本件行動のもたらす弊害の防止を目的としたものであつて、国民全体の共同の利益を擁護するためのものであるから、その禁止により得られる利益とこれにより失われる利益との間に均衡を失するものとは、認められない。したがつて、国公法一〇二条一項及び規則五項四号、六項一三号による禁止は合理的で必要やむをえない限度を超えるものではないから、憲法二一条に違反するものとはいえない。

なお、控訴人らの主張の中には、本件行為のような政治的行為が公務員によつてなされる場合にも、当該公務員の管理職非管理職の別、裁量権の範囲の広狭などによつてその合憲性に差異がある旨主張するところもあるが、これらの事由は、公務員の政治的中立性を維持することにより行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保しようとする法の目的を阻害する点において差異をもたらすものではない。たとえ個々の公務員の担当する職務内容が裁量の余地の少ない機械的業務が重い比重を占めるものであるとしても、有機的統一体として機能している行政組織における公務の中立性が問題とされるべきものである以上、そのことのゆえをもつて、公務員の政治的中立性について例外視する理由はない。また、前示公務員の政治的行為の禁止の趣旨からみれば、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無などはその政治的行為禁止の合憲性を判断するうえで、必ずしも重要な意味をもつものではない。

三  控訴人荒井の本件行為と規則六項適用の合憲性

控訴人荒井が本件行為当時、前示原判決の引用によつて認定したとおり、国税滞納に伴う各種行政処分を行うについて事実上の裁量権を有し、いわゆる「手心を加える余地」が残された職務についていたことが認められ、この認定に反する<証拠省略>は原判決援用の各証拠に照らし遽かに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠がない。

公務員の政治的行為を禁止する規則六項の適用にあたり、公務員の管理職、非管理職の別、裁量権の広狭などがその合憲性に影響を及ぼさないことは前示二において説示したとおりであつて、それが合憲性に対する影響があることを前提とし、控訴人荒井の本件行為につき右規則を適用することが違憲であるという控訴人らの主張は失当である。

なお、控訴人荒井の本件行為は日曜日のメーデーにおける示威行進中の行為であつて、同人が一地方に勤務する一国家公務員であつたことも明らかである。そしてこのような場合、公務員の政治的中立性を損う弊害が一見軽微なものであるようにみえるとしても、国家公務員についてはその所属する行政組織の機構が広範囲にわたるから、とくに自己が所属庁(国税庁)の職員(組合員)であることを宣明にして行なわれる本件示威行進中にあつてはなおさら、このような行為が累積されることによつて現われる事態や弊害を軽視できないものであるから、本件政治的行為に対し軽い訓告処分に付したことが憲法二一条に違反するというべき理由はない。

第三規則不該当の主張の検討

一  規則制定の経過と規則該当性

控訴人らは、規則は終戦直後組合運動抑圧のためマツカーサー司令部から草案を示されて制定されたもので、当時の特殊事情と異なつた情勢にある現時点においては、控訴人荒井の本件行為は規則六項一三号に該当しない旨を主張するが、およそ法令は憲法に違反しない限りこれが改廃されるまでその効力を存続するものであり、規則六項一三号は同規則制定後その効力が存続中になされた控訴人荒井の本件行為に適用されるのは当然のことであつて、この点についての控訴人らの主張は独自の見解であつて採用できない。

二  組合活動による行為と規則の該当性

一般に、労働組合は、労働者の経済的地位の向上を図るにあたり、その目的達成のために経済的活動のほかに必要な政治活動や社会活動を行なうことを妨げられるものではないが(最判(大法廷)昭和四三・一二・四刑集二二巻一三号一四二五頁、最判昭五〇・一一・二八民集二九巻一〇号一六三四頁参照)、だからといつて、公務員の政治行為が労働組合活動の一環としてなされた場合に、そのことによつて組合員である個々の公務員の政治的行為が正当化されるものではなく、いわんや、個々の公務員に対し禁止されている政治的行為が組合活動として行なわれるときにおいては、それは、組合員に対し統制力をもつ労働組合の組織を通じて計画的に広汎に行なわれ、その弊害は一層増大することになるのであるから、その禁止が解除されるべき理由はない(最判(大法廷)昭四九・一一・六刑集二八巻九号三九三頁参照)。

したがつて、控訴人荒井の本件行為が組合活動の一環として行なわれたとしても、規則に該当する違法な行為であるというべく、この点についての控訴人らの主張も失当である。

第四不当労働行為の主張の検討

前示原判決の引用によつて認定した事実に照らすと、本件訓告処分は、控訴人荒井の違法な本件政治的行為に対し注意喚起処分として行なわれたことが明らかであつて、本件処分が、控訴人荒井が控訴人組合の組合員であること、若しくは同人ないし同組合の正当な行為をしたことを理由として行なわれたものであるとの控訴人らの主張の認められないことが明らかであり、控訴人らの主張に副う当審における控訴人組合京都支部代表者入沢忠男本人尋問の結果の一部は原判決援用の各証拠に照らしにわかに措信できないし、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

第五結論

以上のとおりであつて、控訴人荒井に対する本件処分が違法であることを前提として、これによる損害賠償を求める控訴人らの本訴請求を撲斥した原判決は結局相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下出義明 村上博巳 吉川義春)

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